『わたしを離さないで』は、イギリス人作家カズオ・イシグロの5年ぶりの新作です。カズオ・イシグロの名は、アンソニー・ホプキンスが主演した映画『日の名残り』の原作者として、イギリスで最も権威のある文学賞・ブッカー賞受賞作家として、ご存知の方も多いと思います。『わたしを離さないで』は、英米で発売されるやいなやベストセラーになり、日本でも高い評価を得ています。
「私の名前はキャシー・H。いま31歳で、介護人をもう11年以上やっています。・・・」語り手・キャシーの告白が、映画のナレーションのように、静かにはじまる冒頭。キャシーの仕事は「介護人」。「提供者」と呼ばれる人を介護しています。なにやら、深い事情があるらしい彼女の来歴や仕事。
子供時代を過ごした施設<ヘールシャム>とは?
「介護人」とは?
「提供者」とは?
いきなり大きな謎が読者を待ち構えています。その謎に引き込まれ作品に導かれてゆくと、デリケートに閉ざされた世界の輪郭がうっすらと見えてきます。
この小生津の秘密はご自身で確かめていただきたいのですが、でも、少しだけ触れてみるとこの小説は、近未来やクローン技術や臓器移植が主要なモチーフとして描かれています。<ヘールシャム>の施設で育てられるクローンの子供たちは、他の施設とは違い、文化的に高い教育を受けてとても大事に扱われ育てられています。子供達は自分の運命を知らない上に、自分やクローンであることが何を意味するのかもよくわからず、牧歌的に過ごしています。
特異な世界を描いた作品だと思い読んでいると、私たちは、遠い世界のことではない、より私たち自身のこととして「人間とは何か」「魂とは何か」ということを切実に考え始めさせられはじめます。クローンというモチーフが心の奥底を揺さぶるのです。
作者のカズオ・イシグロは、「人の一生は私たちがおもっているよりずっと短く、限られた短い時間の中で会いや友情について学ばなければならない。いつ終わるかも知れない時間の中でいかに経験するか。このテーマは、私の小説の根幹に一貫して流れています。」と、インタビューで語っています。
カズオ・イシグロの作品は、端正な文章で、細部まで抑制の利いた作品だと評判ですが、「わたしを離さないで」はとても切実な衝撃があります。
最近良い本を読んでいないな〜、という方にはお勧めしたい一冊です。
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